副作用・後遺症
がんの副作用
悪心・嘔吐対策
リスクに応じた制吐療法を検討する
スマイリーより
高度催吐度性リスクレジメンであるシスプラチンなどの抗がん剤による吐き気・嘔吐に関してのオランザピンの併用については日本がんサポーティブケア学会が患者向けに発信したステートメント “抗がん剤治療による吐き気止めとしてオランザピンを処方された患者さんへ”を必ず読んで副作用についても検討し使用するようにしてください。
化学療法レジメンの催吐性リスク分類
処方薬
一般名 | 販売名 |
---|---|
アプレピタント(2015.08更新)(NK1受容体拮抗薬) | イメンド |
パロノセトロン(2012.10更新)(5-HT3受容体拮抗薬) | アロキシ |
グラニセトロン(2015.10更新)(5-HT3受容体拮抗薬) | グラニセトロン |
デキサメタゾン(2014.09更新) | デカドロン |
ロラゼパム(2019.10月更新)(予期性悪心・嘔吐の予防) | ワイパックス |
アルプラゾラム(2020.11更新)(予期性悪心・嘔吐の予防) | ソラナックス |
メトクロプラミド(2020.01更新)(その他の制吐剤) | プリンペラン |
プロクロルペラジン(2020.01更新)(その他の制吐剤) | ノバミン |
オランザピン(2020.02更新)(その他の制吐剤) | ジプレキサ |
吐き気などの予防効果が出ない場合
- 抗がん剤以外の吐き気の原因がないか(腹水による圧迫、腸閉塞など)
- 作用機序の異なる制吐剤の検討
- 同じ作用機序の異なる治療薬に変更
- 1段階リスクの高い予防法を行う
スマイリーより
婦人科がんの治療にあたる多くの医師が緩和ケア研修会などを受講し患者さんの辛さに対する勉強をしていますが、実際に患者さんに起きる副作用についてコントロールしきれない場合もあります。
その場合は腫瘍内科(抗がん剤の専門家)や緩和ケア外来などが院内にあれば繋いでもらうなどして他の医師のサポートも検討しても良いかと思います。
プラチナアレルギー
予兆を訴えることが大切
- カルボプラチン投与時に皮疹、掻痒感、呼吸困難感、喘鳴、腹痛、悪寒を感じた場合はすぐにナースコールをして伝え、対応をしてもらうこと。
- カルボプラチンの点滴を止め、症状に応じてステロイドや抗ヒスタミン剤などの投与がある。
- 場合によっては、その次の治療から脱感作療法も検討する。
しびれ(末梢神経障害)
主治医にどれくらい辛いか伝わることが大切
患者が感じている痺れの辛さを医療者が軽症に捉えてしまい抗がん剤治療をそのまま続行してしまい痺れがさらに増悪することが多い。痺れが重症化してしまうと症状の改善が難しくなるため重症化する前に対策を取る必要がある。
そのため具体的にどれくらい支障があるかメモなどをして伝えることが必要。
必要に応じてより痺れが出づらい抗がん剤に変更も検討する。
- 手や足が常にピリピリして焼けつくような感覚がある。
- ボタンがかけづらく着替えに手間取る。
- テレビのリモコンやスマートフォンなどの操作が難しい。
- 箸やスプーンを落としてしまう。
- お皿や湯呑みを落として割ってしまう。
- 歩くのに違和感がある転ぶ。
- 手すりを持っているつもりがきちんと握れてなくて階段から落ちた。
治療薬
末梢神経障害に有効な薬物療法はなく神経障害性疼痛に対する治療薬を用いるが効果の個人差が激しく全く効果が出ない場合もある。そのため末梢神経障害はこれ以上悪くしないことが大切で早めに主治医に伝え、生活に支障が出る前に対策をする対策する必要があります。
また下記の治療薬に関しては副作用としてめまいなどを訴える患者も多いため事前にしっかり話し合いをしておく必要があります。
一般名 | 販売名 |
---|---|
デュロキセチン(2016.12更新) | サインバルタ |
ガバぺンチン(2019.10更新) | ガバぺン |
プレガバリン(2020.11更新) | リリカ |
牛車腎気丸(2015.07更新) | 牛車腎気丸エキス顆粒 |
牛車腎気丸は小規模なランダム化比較試験で有効性が示されている程度であり推奨する根拠はない。
ガバペンチン・プレガバリンは末梢神経障害に対するエビデンスは乏しい。
日常生活
- 足の怪我を防止するために靴下を着用してください
- 食器などを落として割ってしまうことの対策に100均などの食器を利用する、コレールの食器を買うなど工夫をしている患者さんも多いです。
- 冷えるとビリビリ感が増すという患者さんが多いため暖かくして過ごしてください。
- 感覚が日常と違うため湯たんぽやコタツなどでの低温やけどに注意してください。
手足症候群
抗がん剤ドキシルによる副作用、予防対策をしっかりと!
手足の皮膚に障害が起き赤く腫れ上がったり水膨れができたりします。
- 日常生活
- 初期症状を逃さない(痺れ、ピリピリする、火傷のように痛い、手足が赤くなる、手足が腫れる、手足に水膨れができる、皮膚が厚くなる、皮膚が硬くなる、潰瘍ができる)
- 手足や皮膚への加圧を避ける
- 皮膚の保湿を心がける
- 肌の角質処理を行う
- ドキシル投与中に冷却グローブなどで手首・足首を冷やす(局所冷却)
- ドキシルの点滴中に手足を冷やすことで手足症候群の予防に有効だったという報告もありますが、冷やすことで手足症候群を悪化させたという報告もあります。
- 冷却中に痛みを感じたり辛さを感じたらすぐに医療スタッフに連絡してください。我慢しすぎると凍傷の危険があります。
- 患者さん自身が氷などを持ち込んで冷やしているというお話を伺うことも多いのですが自己判断による冷却による凍傷、痺れの悪化の報告もありますのでお勧めしません。
- お薬による治療
- ビタミンB6製剤
- ステロイド製剤
- 保湿剤
- ステロイド含有塗り薬
- 抗生物質含有塗り薬
- 非ステロイド性抗炎症製剤(飲み薬)
- ドキシルの投与量の調節
- 投与量を減らす
- 投与を延期することで症状が回復する
保湿方法
- 保湿剤は手洗い、水仕事、シャワー、入浴後などこまめに湿っているうちに行ってください。
- 就寝時には保湿をしてゆるい手袋や靴下を履いて寝ると効果的です。
- 皮膚の乾燥を防ぐことが手足症候群対策に効果的です、皮膚の状態に合ったものを医師に処方してもらう、市販薬を購入ください。
手足症候群対策に好ましいこと
- ゆったりとした衣服を着る
- 柔らかい材質で通気性よく足にあった靴を履く
- 靴下を履く
- お風呂やシャワーはぬるめで
- 柔らかいタオルやスポンジで体を洗う
- 保湿剤入りの石鹸などを利用する
- タオルで体をガシガシこすらないで優しく拭う
- 手足の保湿や角質の手入れ、爪切りなどを行う
- 日焼け止めを塗る
- 下着をこまめに取り替え清潔にする
手足症候群対策のために避けること
- 体に密着する時計やアクセサリーをつけない
- 硬い素材の靴を避ける、踵の硬いハイヒールのような靴を履かない
- 体を締め付ける下着はつけない(ボディースーツ、ガードル、ブラジャー、ストッキング)
- 熱いお湯に触れない
- 長時間入浴は避ける
- 手に圧力や摩擦をかけない(雑巾を絞る、包丁で硬いものを切る、ペットボトルの蓋のあけしめ)
- 直射日光に当たらない
- 皮膚を圧迫しない、ぶつけない
- 長時間の歩行をしたり立ち続けない
- ジョギングやエアロビクスなどしない
- 長時間の正座、膝や肘をつく姿勢などとらない
- 車の運転
スマイリーより
手足症候群は手足だけでなく皮膚であればどこでも出る可能性があります。患者会に相談が多いのはボディスーツやブラジャーなどのあたりに摩擦と圧迫により手足症候群様の腫れが起きることです。
ユニクロのブラトップや授乳用のハーフトップなど利用してもらうと良いでしょう。
またリンパ浮腫などで着圧ストッキングなどの装着、バンテージでの着圧が必要な患者さんは主治医やリンパ浮腫の専門外来などで相談しましょう。
口内炎
ドキシルの代表的な副作用です。予防が大切です。
- ドキシルの治療開始前に歯科で歯の手入れをしてください。
- 抗がん剤の治療までそれほど間がないことを伝え(必要があれば婦人科の主治医から紹介状を書いてもらいその旨を説明してもらう)治療開始までに必要な手入れを行ってください。
- 虫歯・歯周病の治療
- 尖っている歯を丸める
- 義歯の手入れ
- 歯磨き
- 食後は必ず磨く
- 柔らかい毛の歯ブラシを使う
- 力を入れずに磨く
- 歯磨き粉は発泡剤の含まれていない泡が立たないものを使う(バトラーマイルドペースト)
- 歯間ブラシなども利用し歯の隙間も磨く
- 痛みや出血がある場合はスポンジブラシや綿棒を利用する
- 義歯がある方は流水下でブラシでよく磨き週に2-3回は義歯洗浄剤に漬けてください。
- うがい
- 1日4、5回うがいをする
- うがい薬としてお薬を処方される場合もある(アズノール、キシロカインなど)のでその場合は用法をまもること
- 市販の洗口剤を使う場合はアルコールの入っていない低刺激性のものを使う
- 口腔内の保湿
- 口の中が乾燥していると粘膜への刺激が強まるので保湿剤を使う。
- お薬による治療
- 食生活
- 刺激の強い食品(香辛料の多く含まれている食品)をとらない
- 熱い食品や飲み物をとらない
- 硬い食品をたべない
- 炭酸飲料、コーヒー、アルコール飲料を飲まない
- 酸っぱい食品(果物を含む)や飲み物を避ける
- 喫煙しない
がんの後遺症
リンパ浮腫
- 婦人科がん治療後の続発性リンパ浮腫は適切な治療がなされず放置されるとさまざまな苦痛を生じ、がんサバイバーのQOL(生活の質)を低下させる切実な問題である。
- 発症早期から適切な治療を行えば、それ以上悪化させることを防止することができる。たとえ進行例であっても浮腫をある程度改善させることが可能である。
- リンパ浮腫に対する標準的治療は複合的理学療法(スキンケア、圧迫療法、圧迫下での運動、用手的リンパドレナージ)に日常生活指導を加えた複合的治療である。
(婦人科がんサバイバーのヘルスケアガイドブックより)
スマイリーより
患者会には「リンパ浮腫かも?」という相談がとても多いです。
まずリンパ浮腫かどうか気になる患者さんは定期的(例えば毎週金曜日の朝など)に、定点的(太もも、膝周り、ふくらはぎなど)なサイズを測っておくことで左右の差などを確認してもらうことを勧めています。
そして必要に応じて主治医にまずご相談していただいたうえで院内にリンパ浮腫外来などがある場合はそちらを利用してもらうこと、院内で適切なケアが受けられない・相談ができない場合は、衛生学園マッサージ治療室(旧後藤学園)、亀田京橋クリニック、広田内科クリニック、リムズ徳島クリニック、ANA治療院をご紹介して診断・治療・ケアについて相談してもらうよう伝えています。また手術などについて情報が必要と訴えられた場合に関してはJR総合病院の情報を提供し患者さんに改めて主治医に相談してもらうよう伝えています。
また稀に体のサイズが大きい患者さんなどで弾性ストッキングなどのサイズにお困りな方、リンパ浮腫ではないけれど足が重だるく感じたりする方についてはリンパレッツさんにご相談してみてはとご紹介しています。
卵巣欠落症状
卵巣がんの手術前に閉経をしていなかった女性が、手術より卵巣を切除し外科的閉経をすることで
ホットフラッシュ、のぼせ、異常な発汗、めまい(これらの血管運動系神経症状
不眠、不安(精神神経症状)
萎縮性膣炎、外陰掻痒感、性交障害(性尿生殖器の萎縮症状)
動脈硬化、高血圧、脂質代謝異常、心血管系疾患、骨量減少、骨粗鬆症(その他)
などがエストロゲンの急低下のために起きてしまうことがあります。
外科的閉経で急速に失われたエストロゲンを早期から補充しこれらの症状を予防することができます。
- 婦人科がんサバイバーでは卵巣欠落症状と呼ばれる更年期様の症状が現れることがあり、治療終了後の長期QOLの維持のためには適切な対応が必要である。
- がん治療として集約的治療を行うことは治療後の更年期障害様症状を含むさまざまな症状を発現するリスクが増えると考えられる。
- 治療後の生活の質を落とさない配慮が必要である。
- 脂質代謝、骨密度、血圧の定期的測定が必要である。
- 卵巣がん術後のHRTは考慮できる。
- HRTは婦人科がんの再発に影響せず長期継続が可能である。
- HRT禁忌ではエクオールサプリメントの効果が期待される
(婦人科がんサバイバーのヘルスケアガイドブック)
婦人科がん治療で自覚される症状(治療中から治療後にかけて)
1位:易疲労感
2位:性機能障害
3位:睡眠障害
4位:神経症状
5位:排尿障害
6位:消化器症状
7位:記憶障害
8位:うつ
9位:不安感
10位:下肢の浮腫
HRT(ホルモン補充療法)
進行がんも含め術後補助化学療法を終了した患者さんに対してHRTと再発リスクの関係を調べた研究ではいずれも卵巣がん治療後のHRTは再発リスクを増大させないという報告であった。Cancer 1999;86:1013-1018、J Cancer 2006;119:2907-2915
スウェーデンのコホート研究では卵巣がん治療後にHRTを開始した群の方が未施行群に比べて優位に予後が良好であった(全組織型で同様)。
HRTは再発リスクを増大させず、早期がんでも進行がんでも再発に影響はない。
注意点
重度の活動性肝疾患、乳がんとその既往、急性血栓静脈炎、冠動脈疾患、脳卒中既往などには禁止。
顆粒膜細胞腫はHRT不可。
治療薬
エストラーナテープ、ディビゲル、ジュリナ錠、プレマリン錠など
注意
卵巣がん治療ガイドライン2020でも
「エストロゲン欠落症状を有する場合や45歳未満の場合にはHRTを推奨する」
と記載されていますが
・海外での研究では日本人に多い明細胞がんなどが含まれていない
・日本人における卵巣がん治療後のHRTのデータがない
・卵巣がん治療後のHRTは再発リスクを高めないというエビデンスは確立されているものの術後早期から行うことのエビデンスが不足している
・年齢の要素を加えるべき
などさまざまな指摘がなされていること、ガイドラインに記載するにしても医師の間での合意率はそれほど高くないことが記されています。
スマイリーより
ホルモン補充療法はエストロゲンのみの投与では短期間(5年程度)であれば乳がんのリスクを下げるような報告もあることから外科的閉経により辛い症状を訴える患者さんには情報提供をしています。
しかし医師によっては未だに否定されている乳がんのリスクなどをあげHRTはしないと説明したり、卵巣がんにHRTは推奨されていないといった誤解が持たれていることが少なくありません。
また卵巣がんサバイバーのためのヘルスケアガイドブックやガイドラインでは推奨となっていますが、産婦人科外来ガイドラインでは未だに卵巣がんに対しては慎重投与となっており、そのために慎重になる医師もいます。
卵巣欠落症状による性交痛などは主治医にも伝えづらい場合があり我慢をしている患者さんも少なくなくその場合は理解ある女性医師なども紹介しているところですが東京近辺のご案内になります。
また今の時代でも婦人科医師による「そこまでしてセックスしたいの」「膣の中がかさかさで萎縮しておばあちゃんの膣みたい」みたいな暴言によりショックをうけたり辛い症状を我慢している患者さんもいて相談を受けていて辛いなと思います。
この項目の冒頭に書かれたような卵巣欠落症状によるQOLの低下が防げたら家事や社会生活もより良いものになるのにと思うのですが。
なお、この項目に示した以外にも医学的に慎重投与が必要な患者さんはいますし、HRTもメリットばかりではありませんのでしっかり主治医と話し合って治療をすることをお勧めします。
参考図書:誰も教えてくれなかった婦人科がん薬物療法第2版
参考図書:婦人科がんサバイバーのヘルスケアガイドブック
参考資料:卵巣がん・化学療法ドキシルによる治療を受ける患者さんへ