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スマイリーからのお知らせ


プラチナ抵抗性再発卵巣がんの治療薬ハイカムチンの不適切使用について通報を行いました

2019年07月25日

 
平素よりスマイリーの活動についてご理解と応援いただきありがとうございます。
タイトルだけをみて不安を覚えられた患者さんがおられると思いますが、最後までしっかりお読みいただけましたら幸いです。
 
1.ハイカムチンについて
ハイカムチン(ノギテカン)は2011年2月に承認されたプラチナ抵抗性再発卵巣がんの治療に用いられている抗がん剤です。
承認までには私たちスマイリーや関係学会が厚生労働省の検討会に対して早期開発の要望を提出し認められた経緯があるお薬です。
 
添付文書では
がん化学療法後に増悪した卵巣癌

本剤投与により重度の血液毒性所見があらわれることがあるので、投与後、血液学的検査値の変動に十分留意し、次コースの投与量は患者の状態により適宜減量すること。
〈減量の目安〉
減量の段階  投与量
初回投与量  1.5mg/m2/日
1段階減量  1.25mg/m2/日
2段階減量  1.0mg/m2/日
と記載されています。
 
つまり、ハイカムチンは何らかの抗がん剤の治療を経た後に、再発などをした患者さんに対して標準量として1.5mg/m2/日を5日間投与するという方法が承認されており、慎重投与や減量が必要な患者さんに対してもきちんと基準がある抗がん剤です。
これらの使い方に関しては、製薬企業が治験を行い、独立行政法人医薬品医療機器総合機構が承認審査にあたりきちんとした手続きを経て承認に至っている使用方法です。もちろんガイドラインにも記されています。
 
2.通報までの経緯と理由
今回、医師名と病院名の公表は控えますが、地方の県立がんセンターにおいて、患者さんに事前の説明もなく(もちろん同意もない)ハイカムチン1.5mg/m2/日ではなく1.0mg/m2/日で投与するという事案が発生しました。
患者さんは抗がん剤が減量されているとも知らず投与され効果が見られませんでした。
セカンドオピニオン等の準備を進める上で治療法を確認した際に減量を知らされました。
そうなると患者さんの心情はどうでしょうか。
治験で推奨されている治療を受けていたらもっと効果があったのかもしれないと後悔するのは当然のことです。
そして時間を治療前に巻き戻すことはできません。
これがこの患者さんだけの「個別の事案」であれば医師の倫理的な問題だとして患者さんと医師とで話し合えば済む話だったかもしれません。
 
しかし残念ながらこの県立がんセンターでは、ハイカムチンは1.5mg/m2/日よりも少ない容量でレジメン登録されこれまで他の患者さんにも投与されていたことがわかりました
医師は副作用が強い薬だからと説明しているようですが、治験で承認され、ガイドラインにも記載されている容量から変更するのであれば、もちろんその患者さんの体力や既往症などの考慮の上で話し合う必要があります。なにより、減量をするなら、奏功率はかわらないのか、副作用はどれくらい減るのかといったきちんとした根拠を示さないで減量をするのはあってはならないことだと思います
みなさんはどうですか?
治療をするのに確かに副作用は怖いと思います。
でも、抗がん剤の量を減らして奏功率がどうなるのか、どれくらい副作用が減るのかきちんと知って判断したいと思いませんか?
そうしたことを示さないで、再発した患者さんの個別の事情もふまえず一律で減量したレジメンを登録して患者さんに治療をしていたとしたら不適切な抗がん剤の使い方をしていると言われても仕方ないと思います
 
あらためてまとめると、今回、県立がんセンターにおいて患者さんの個別性の検討での減量ではなく、一律レジメン登録で減量をしている実態が判明しましたので、それは国で承認されている方法ではなくいたずらに減量をしている不適切な使い方ではないかと通報をしたということです。
  
3. 通報先とその理由について
今回、通報先を独立行政法人医薬品医療機器総合機構にしすでに通報済みです。
その経緯をご報告申し上げます。

 
今回問題になっている県立がんセンターの医師がハイカムチンを正しく使えないというのはどういうことか。
 
過去に日本では呼吸器がん治療に用いられている抗がん剤で重篤な副作用が発生し患者さんが亡くなってしまうという事案が発生し裁判になりました。
その際の争点の一つは「添付文書」でした。
添付文書はみなさんがご存知の通りお薬についている用紙で適応症や使い方、副作用等が事細かに書かれているものです。
裁判ではその重篤な副作用があまり強調して書かれていないために医療者が副作用の意識を持っていなかったのではないかとされたのです。
(個人的には、患者さんが副作用に苦しんでいるのに対応しない医師の問題であり国の責任かなと思いますが)
結果としては国が勝訴しましたが最高裁まで戦うご遺族もおられました。
 
県立がんセンターの医師がハイカムチンを適切に使えないのは医薬品を医師が理解するにあたり構造的な問題がないかまずは薬について審査をしている医薬品医療機器総合機構にお知らせし検討してもらえるよう通報しました。
 
また、ハイカムチン販売元である日本化薬に対しても医薬品医療機器総合機構に不適切使用として通報済みであることはお知らせしました。
 
ここから先、スマイリーのアドバイザリーとしてご尽力いただいている先生方等とも相談をして各学会等にも不適切使用が行われることがないよう科学的根拠に基づいた治療が行われるよう働きかけるつもりです。
 

4.治療に対する思い
私も当該患者さんも「減量が悪い」と言っているのではありません

患者さんの中には既往症をもっておられたり年齢や体力の問題をお持ちの方もおられます。
もちろん添付文書にもいくつか慎重投与が必要な事例は記載されています。
そういった場合は適切に減量をし患者さんの安全を守ることが大切と考えています。
 
いっぽうで、がんの増殖を抑えてより良い状態で1日でもいたいと願う患者さんに対して、科学的根拠やその患者さんの個別背景も吟味せず「副作用が怖い」などとあたかもそれらしい説明をして減量をするのは本当に良いことでしょうか?
科学的根拠も示さずに医師の裁量で減量するとしたならばそれは科学的根拠も示さず医師の裁量で免疫があがるとかそそのかしインチキ医療をしている医者と変わらないじゃないですか?

そこを我々は問うています。
 
私たちは科学的根拠に基づいた治療を受ける権利をもっています。もちろんその根拠の質もあることは理解しています。
患者さんは減量が必要ならばどうして減量が必要なのか、減量をして効果に問題はないのか、減量をしたら本当に副作用が軽くなるのか、そういった情報を知った上でその治療を受けるのかどうか決める権利があると思いますし、そういうことも示さずにいたずらに抗がん剤を減らしているとしたら、私たちが治療を受ける目的が軽視され、命が軽視されていると考えるのは同然ではないでしょうか?  

すでにマスメディアも興味を持っていただいており取材も受けていますので、マスメディアの記事で患者さんが知るよりは、まずは私からご報告をさせていただきました。
 
5.再発卵巣がん治療を受けている患者さんへ
なお患者さんにお願いです。

治療が変わる際などは、きちんと抗がん剤の投与量、投与方法をきちんと確認をしてください。
4月から7月までの短い期間ではありますが当会の相談を調べたところ、昨年度からの引き継ぎ事案でもありますが、ジェムザールを本来1回1000mg/m2、3投1休が添付文書に記載されているところを1回900mg/m2、2投1休で提案されている患者さんがおられました。
それで例えば2クール目が終わって効果を評価すると思ったら、本来であれば1000mgを3投、2クールで6000mgいれて評価するところを、900mgを2投、2クールで3600mgで評価されるわけです。
ジェムザールで重篤な骨髄抑制がでるのは26%ともいわれていますが、いたずらに量を減らして本当に骨髄抑制を抑えて効果は同等であるといえるのでしょうか?
もちろん抗がん剤に副作用が出ないとはいいません。副作用はどの薬にでもあるからこそ、しっかり話し合って治療の目的を確認し、患者さんがこれから先どのように生きていきたいのか話し合いってほしいのです。
その際には正確な情報提供をうけて患者さんには治療を決定してほしいと思います。

抗がん剤が減量される場合は、どうして減量が必要なのか、それは科学的根拠があるのか、それで不利益はないのか確認してほしいと思います。

治験をへて抗がん剤が承認されるまでには、その治験に協力をしてくれた多くの患者さんがいます。
その患者さんはまさに治験というものを受ける不安と戦い、病院にも頻回通ったり併用薬など拘束される中、検査のための採血などをされる、まさに「血と汗と涙と時間」を使って、未来に同じ病気と向き合う患者さんのために頑張ってくださったんです。
そうして承認された薬が適正に使用されるよう私たちは望んでいるのです。
 
今回通報先には医療機関名と担当医師の名前は報告しておりますが、患者さんの余計な不安を増長させないようお問い合わせをいただいても医療機関や医師名、患者名についてはお知らせいたしかねますことを最後にお伝えしておきます。

卵巣がん体験者の会スマイリー 片木美穂

 


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